辛いことばかりを集めたアルバムの中に生きてるみたい。
最近悲しい出来事ばかりが続いていた友人が、そう呟いた。
続けて、でもこんなことで悩んでいる自分が馬鹿らしく思えることがある、と
彼女はわたしに、ある夫婦の半生を語って聞かせてくれた。
捕まることを恐れつつも、国に子供を置き去りにしてまで、
これ以上自分の国では生きていけないと、ドイツに逃げ込んできた夫婦の話を。
自分の国を捨てる。
日本国籍を持ち、日本で生まれ育った人で、そう決心した人が、一体何人いるだろうか。
少なくともわたしには、とても想像がつかないことである。
確かにわたしには、ドイツにもっと長くいたいという思いはあるけれど、
だからといってそれが、イコール生まれ故郷を捨てる、ということにはならないのだ。
日本に暮すことがなくても、たとえ結婚して国籍が変わったとしても、
わたしはどこまでいっても、一生日本人であるという意識は変わらないだろう。
でもそれは、わたしの出身国が日本だからこそなのだ。
世界には、命懸けで自分の国を捨てる人が、大勢いる。
東の国の人は性格がキツイだとか、ケチだとか言うけれど、それはそうなってしかるべきなのかもしれない。
強くなくては、お金に細かくなくては、生きていくことなんてできやしない。
その夫婦は、ドイツに亡命し、知り合いの家に匿われている間、
毎晩のように牢屋に閉じ込められたり殺される夢に魘されたという。
家では必ず盗聴されるために、大事な話は筆談したり、街のど真ん中でこっそりするしかない、
そんな時代を経て、もうここでは暮していけない、そうして悩みに悩んで決行した逃亡。
まるで映画の中のようなその話に、わたしは呆然としながら耳を傾けていた。
自由なんてものは、自分の手の中にあって当然だとばかり思っていたのに。
今朝いつも利用するコピー屋に立ち寄った際、店主がコーヒーと共に、自分のアルバムを手渡してくれた。
そこに写っていたのは、彼の生まれたときから今までの様子。
おそらくそれらは、アングルなんてあまり考えることもなしに、
普通に写しただけの単なるスナップにしか過ぎないのにも関わらず、
何とも言えない味のある写真の数々に、わたしは時折溜め息を漏らしながら見入ってしまった。
とにかく魅力的なのだ。そこに写る人々も、その背景も。
彼も先の夫婦と同じく、ドイツ近郊からやってきた外国人である。
彼がどんな経緯でここにやってきたかは知らない。
そのアルバムを見る限りでは、暗さも翳りも微塵も感じられないけれど、
人生の素敵な瞬間を切り取った、その写真と写真の間には、
とても笑顔ではいられない事実が存在したこともあったのかもしれない。
雨ばかりのこの街にしては珍しく、辺り一面は雪景色。
雪が溶けるように、彼らに圧し掛かった重いものも、いつか消えてなくなる時が来るのだろうか。
最近悲しい出来事ばかりが続いていた友人が、そう呟いた。
続けて、でもこんなことで悩んでいる自分が馬鹿らしく思えることがある、と
彼女はわたしに、ある夫婦の半生を語って聞かせてくれた。
捕まることを恐れつつも、国に子供を置き去りにしてまで、
これ以上自分の国では生きていけないと、ドイツに逃げ込んできた夫婦の話を。
自分の国を捨てる。
日本国籍を持ち、日本で生まれ育った人で、そう決心した人が、一体何人いるだろうか。
少なくともわたしには、とても想像がつかないことである。
確かにわたしには、ドイツにもっと長くいたいという思いはあるけれど、
だからといってそれが、イコール生まれ故郷を捨てる、ということにはならないのだ。
日本に暮すことがなくても、たとえ結婚して国籍が変わったとしても、
わたしはどこまでいっても、一生日本人であるという意識は変わらないだろう。
でもそれは、わたしの出身国が日本だからこそなのだ。
世界には、命懸けで自分の国を捨てる人が、大勢いる。
東の国の人は性格がキツイだとか、ケチだとか言うけれど、それはそうなってしかるべきなのかもしれない。
強くなくては、お金に細かくなくては、生きていくことなんてできやしない。
その夫婦は、ドイツに亡命し、知り合いの家に匿われている間、
毎晩のように牢屋に閉じ込められたり殺される夢に魘されたという。
家では必ず盗聴されるために、大事な話は筆談したり、街のど真ん中でこっそりするしかない、
そんな時代を経て、もうここでは暮していけない、そうして悩みに悩んで決行した逃亡。
まるで映画の中のようなその話に、わたしは呆然としながら耳を傾けていた。
自由なんてものは、自分の手の中にあって当然だとばかり思っていたのに。
今朝いつも利用するコピー屋に立ち寄った際、店主がコーヒーと共に、自分のアルバムを手渡してくれた。
そこに写っていたのは、彼の生まれたときから今までの様子。
おそらくそれらは、アングルなんてあまり考えることもなしに、
普通に写しただけの単なるスナップにしか過ぎないのにも関わらず、
何とも言えない味のある写真の数々に、わたしは時折溜め息を漏らしながら見入ってしまった。
とにかく魅力的なのだ。そこに写る人々も、その背景も。
彼も先の夫婦と同じく、ドイツ近郊からやってきた外国人である。
彼がどんな経緯でここにやってきたかは知らない。
そのアルバムを見る限りでは、暗さも翳りも微塵も感じられないけれど、
人生の素敵な瞬間を切り取った、その写真と写真の間には、
とても笑顔ではいられない事実が存在したこともあったのかもしれない。
雨ばかりのこの街にしては珍しく、辺り一面は雪景色。
雪が溶けるように、彼らに圧し掛かった重いものも、いつか消えてなくなる時が来るのだろうか。