便利な時代になったもので、これまで手紙にしたためていた報告も、
ちょっとしたものならメールで済ませる癖がすっかりついてしまっている。
電話、ファックス、メール。郵便の、切手を貼って出す手間と、海を渡って届く時間を考えれば、
それらは遥かに手軽で、それだけに億劫がらず連絡を取ることができて、そこは大いなるメリットだろう。
しかしこんな時代にあっても、未だ私の友人の中に、パソコンも携帯も持たず、
通信とはすなわち郵便、せいぜい家の固定電話、という人がたった一人だけいる。
今思うと、この十年でメール文化にすっかり慣れ親しみ過ぎた私と、
昔ながらの連絡方法しか持たない彼との連絡が途絶えるのも、無理もない話だったのかもしれない。
最後に彼の筆跡を目にしたのは一体何年前のことだっただろうか。
あれだけ学生時代を共に過ごした、大切な仲間の一人だったのに。
この冬、報告したいことができた私は彼に一通のハガキを書いた。
あれからもう何年も経った。恐らくは変わっているに違いないと思いつつも、
宛名に私が唯一知っている彼の最後の住所を記す。
数週間後、見慣れた字で書かれたハガキがポストに入っていた。
が、それは彼の筆跡ではなく、私のもの。
ドイツから海を越えて日本に渡ったハガキは、転居先不明でまた海を越えて戻ってきたのだ。
"RETURN TO SENDER"の赤い文字が、少し悲しかった。
留学で一人ぼっちで淋しかった私を、いつも励ましてくれた彼。
今どこで何をしているか、これで私が知る手段はなくなってしまったけれど、
お互い元気でいれば、いつか必ず会うような気がする。
世界のどこかで、きっと今も夢を持ち続けているであろう彼と。