「彼」がマルクト広場から消えた、いや正確に言うと盗まれたというニュースを聞いたのは、
確かクリスマス前のことであった。
何気なくつけていたテレビの音声を聞いていただけで、詳しいことは分からなかったが、
どうやらある日「彼」は突然連れ去られ、ある朝パン屋の店先に再び忽然と現れたということらしい。
しかも、世界に名立たる観光地をバックに写した、記念アルバムと共に。
そのフォトアルバムの写真も何枚か見たが、おそらくは合成なのだろう。
150kgもあるという「彼」を連れて、世界を旅するはずもないのだから。
しかし一体何故こんなことを?
クリスマス前のことをようやく今になって書いたのには理由がある。
このニュースを聞いて私が咄嗟に思ったのは、
「確かこれに似たような話があったよなあ」ということだった。
だがそれが何であったか、ちっとも思い出せないのだ。
映画だったか、はたまたドイツのテレビドラマだったか…。
それが、一ヵ月後になってようやく、ふとしたことで思い出した。そうだ、「アメリ」だった、と。
誰が一体何の為にこんなイタズラをしたのだろう。
まさか「アメリ」みたく、"誰かを幸せにしたい"と思ってやったとは思えない。
たとえそうだとしても許されるはずもないこと。
犯人は捕まったかどうか、その後のことは知らないけれど、さぞかし「彼」も迷惑だったことだろう。
今頃、やれやれ無事に帰ってこれたわい、とほっと胸を撫で下ろしているかもしれない。
写真は盗まれる前の「彼」(多分これだと思うのだけど)。
ちなみに写真左下の方は、当件と何の関係もありません。