昼食をこの村で、と思っていたのだが、カフェもレストランも見当たらない。
そうだ、チーズ工房に行けば何かしらあるかもしれない、そう思いついて工房の中に入ると案の定、
観光客と思しき人々が口をモゴモゴさせながら、
チーズを作る工程についての説明を受けているところだった。
見渡すと、食べられそうなものはパンにチーズを挟んだものぐらいしかなく、
仕方なくそれを注文する。が、これが不思議と美味しい。
おなかが空いてたこともあるけれど、これは思ったよりイケルではないか。
ぺろりとパンを平らげた後、試食コーナーで片っ端から味見してみると、これがみな美味。
端から端まで、と言いたいのをグッと堪えて、そのうちの一つだけをお土産に選んだ。
このチーズ、目下我が家の毎朝の食卓にて大活躍中。
やはりもっとたくさん買っておくべきだった、と少々後悔しつつ味わう毎日である。
アムステルダムを私はとても素敵な街だと思う。
が、ハイシーズンでもないのに観光客が多くて、少々騒がしい。
少しだけ都会の喧騒から逃れたくて、その日の午後は電車に飛び乗った。
行き先は、ザーン川のほとりの村、Zaanse Schansに決める。
コーフ・ザーンダイクという駅で降りるはずが、
間違えて一つ手前で降りてしまう、なんて間抜けな失敗もありつつも、無事到着。
駅から歩くこと15分、橋を渡るとそこは、かわいらしい風車の村だった。
村までの橋から見た風車。
ふと、オランダの町はあちこちと随分頻繁に行くのに、
そういえばこんなオランダらしい風車を見たことは今までなかったことに気づく。
橋の上は寒くて凍えそうで、一枚シャッターを切ると即、先を急いだ。
それがどういう感情から生まれるものなのか、
かわいそうだとか、残酷だとか、そういうものとは少し違う気がするけれど、
どうしても上手く言葉にして表せない、そんな思いを抱えながら、
私は終始ウルウルしっぱなしだった。
そこに足を踏み入れたときからずっと。
朝一番で向かった先はアンネ・フランクの家。
彼女たちのような辛い思いをしなければならなかった人間が、一体どれだけいただろうか。
アンネは、その数え切れない程の犠牲者の中の一人に過ぎないのかもしれない。
それでも、自身の体験や思いを綴り、そしてそれが運良く後世に残った、
そのことは、今の時代を生きる者に、確かな何かを伝えている。
改めて言葉の強さと重みを感じる。
それにしても、常に何かに怯えながら生活するというのは、どれだけ厳しいことだろう。
ましてや自分に何も罪はないとなれば、こんなに理不尽なことはない。
逃げたり隠れたりが、悪い人間だけの行動でなかった時代があった、
そのことを思うだけでも胸が痛む。さぞかし恐ろしい毎日だっただろうと。
それにも関わらず、不平も言わないでできるだけ明るく過ごそうとしたアンネ。
そんな彼女の様子が日記からも展示物からも垣間見ることができる。
幼い少女のどこにそれほどの強さが秘められていたのだろうか。
ここを訪れて、私は彼女から、何かしらのエネルギーをもらった気がしている。
写真は、近くの西教会前の広場のアンネの像。
こんなに短い生涯だったなんて…。
生き延びていれば良いジャーナリストになれただろうに。
最後に西教会の写真を。
翌日、よく晴れた朝。
息を吸い込んだらそのまま喉が凍り付いてしまいそうな、
そんな冷たい空気を纏いながら、水路と水路の間をゆっくり歩く。
白いものがバタバタと音をたてる。見るとカモメだった。
たくさんのカモメ。潮の香りはしなくとも、ここはやはり海の近くの街なのだと思う。
川があって、海があって。大都市でありながら、ここは水の豊かな美しい街だ。
ドラッグに売春宿。自由と背中合わせの犯罪。
アムステルダムのイメージは、訪れる前は決して良いものではなかった。
それが実際、一旦この地に足を踏み入れるとどうだろう、
一度でこんなに気に入ってしまうとは、自分でも思いもしなかった。
たった数日の滞在で何が分かるだろう。
昼間の街を、他の観光客に紛れながら観光地を巡るだけの旅。
でも、それでいいと思っている。
見上げると、平和の象徴が鈴なりに。
すっかり覆されたこの街のイメージが、そこに集約されている気がした。
オリンピックに夢中になっている間に、さっさと過ぎ去ろうとしていた2月。
その最後の週末を利用して、いざオランダの首都、アムステルダムへ。
この時期ヨーロッパは丁度カーニバルのシーズン。
途中、奇抜で派手な衣装に身を包んだ人が、ちらほら電車に乗り込んでくる。
が、ドイツほどの賑やかさはなく、少々安心する。
午後、電車がアムステルダムに着いても、お祭り騒ぎの気配は微塵もない。
ケルンを始めとしたドイツのカーニバルが苦手な私はここでまた、ホッと溜息。
おまけに心配していた空模様も、何故だか不思議なくらいよいお天気だ。
何とも上手い具合にドイツを抜け出したものだ、と一人ごつ。
アムステルダムはずっと行ってみたい街の一つだった。
ゴッホとアンネ。この二人に会いたいが為に計画した小旅行。
ホテルに着いて一息ついたのも束の間、早速向かったのはゴッホ美術館。
人が多いのには閉口したが、楽しい旅の始まりにはこの上なく相応しい、
上等なコレクションの数々だった。
惜しむらくは、やはりもう少し落ち着いてゆっくり観て廻りたかった、ということ。
私には、小さな美術館で数点のよい作品を愛でるような、
そんな地味でささやかな楽しみ方の方が合っているのかもしれない
(そういえば昔、パリのロダン美術館で、思いがけずゴッホの絵に出会い、えらく感動したことがある。
確かたった二点しか飾られていないけれど、これが両方素敵なのだ)。
とはいえ、それでも念願果たせて大満足。
さて明日はアンネに会いに行こう。
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