海を見てあなたはまず何を頭に思い浮かべるだろうか。
遠い日の幼き頃のことを思い出したり、特定の誰かの顔が浮かんだり、
故郷に思いを馳せたり、予定もない南の島でのバカンスを妄想してみたり…
そもそも何も思い浮かべやしない、という人の方が多いかもしれないが、
この時私の頭の中にあったのは、実家の愛犬のことであった。
彼女が我が家にやって来たのは平成三年のことだから、今はもう随分とおばあちゃん犬だ。
心なしか表情に老いを感じることもたまにあるが、未だに愛らしい。
本当に小さかった頃の写真を残していなかったのが悔やまれてならないのだが、
あの時も今も、彼女は変わらず我が家の一員である。
変わったことと言えば一つ。臆病すぎて、車に乗るのも嫌がり、
散歩の範囲も信じられないほど狭かった彼女、歳を取って恐いものがなくなったのか、
車も平気、散歩にも遠くまで出かけて行くようになったという。
それならひょっとして、水辺も平気になったのではないか。
ハワイに行く前、実家でそんなことを考えていたから、
海を見て咄嗟に思い出したのが彼女のことだったのだろう。
私はここで本を読みつつ、彼女が水と戯れているのを眺める、なんて一生叶わぬ夢なのかしら。
7日目 ワイキキビーチ