私が白い花をこんなにも好きだと思うのは、私の心がいつの間にか、
すっかり薄汚れてしまったせいかもしれない。
許したり許されたり、受け入れたり受け入れられたり、そんなことが何の苦もなくできたあの頃。
希望や期待や夢を胸に、純真で真っ白な心で、明るい未来を疑いさえしなかった時代は、
もう随分と昔々のことになってしまったということなのだろう。
キラキラと眩しいが故にどうしようもなく憧れる、白は今の私にとって、そんな色だ。
夜、といってもまだまだ日の高い午後7時半。
涼を求めて訪れたカフェからの帰り道、街は赤と黄と黒の三色で埋め尽くされていた。
言わずもがな、これらはドイツの国旗のカラーである。
ユニフォームに身を包み、顔にはペイントを施し、首にはホイッスル、手には国旗。
そう、間もなくドイツ-イタリア戦が始まるのだ。
一体どこから沸き出たのか、と思うほどの人出に、思わず人酔いしそうになる。
街の温度計は35度を示していたが、人の熱気が気温をそれ以上に上げているように思われた。
ドイツ人の、サッカーに対する熱狂ぶりを見ていると、時に羨ましささえ感じることがある。
心から、本当に心から自国のチームを応援し、共に喜び、共に泣く。
大人になってから何かにこれだけ熱狂し、興奮することができるなんて、
なかなかあることじゃない、そう思ってしまうからだろう。
実際、試合中はテレビを点けていなくとも、大体途中経過に予想がつく。
味方のチームがゴールすれば、近所から轟音が鳴り響くのだから。
同様に、最終結果もニュースなど見る必要はない。
勝てば夜中中、車のクラクションは鳴り響き、救急車の出動も俄然増える。
さて今宵はいかがであったか。
驚くほど静かな夜。どうやらドイツにとって残念な結果に終わったようだ。
愛すべき私のドイツの友人たちには申し訳ないが、
私は平和な夜を迎えられて、少しだけホッとしている。
そして、本当に心から悔しがっているであろう友人たちに、
軽い嫉妬を覚えている。
希望や期待や夢。私が既にどこかに置き忘れてしまったもの。
それがまだここにはある。
スポーツが愛される理由が、スポーツを見るのもするのも得意でない私にも、
今回少しだけ分かったような気がした。